本文へスキップ

電話でのご予約・お問い合わせはTEL.0854-84-0788

〒694-0064 大田市大田町大田イ14-2

コラムColumn

つぶやき 角 昌晃

  2007年〜2010年のつぶやきです。

「・・・・気づくのが遅かったんです。」

その患者さんは腐っていく自分の足をじっと見つめてそうつぶやかれました。
私はとっさに「Mさん、他の若い患者さんにMさんの体験を話していただけないですか?」とお願いしていました。
しまった、無理なお願いをしてしまったなと思った瞬間に思いがけず、「私のような人間でも皆さんのお役に立てるのであればいいですよ。」と返事をいただきました。
手術して元気になったらきっと患者会で体験談、失敗談を話していただくと約束をしたのですが、平成19年秋に下肢切断のため入院後帰らぬ人となられました。享年49歳でした。

30歳代前半で透析患者となったMさんの食生活は非常に乱れていて、いわゆる自己管理のできていない患者さんだったそうです。体重増加が多いのは当たり前、リンの値が7,8でも気にしない、そんな生活の末44歳で心筋梗塞となり、心臓の手術を受けられました。その後反省され、私が出会った三年前はすでに増加もリンも問題のない、間違いなく優等生の患者さんでした。ただ最初に無茶苦茶な生活を送ってしまった置き土産にボロボロの血管が残ってしまったのです。

「あの頃の私はどうかしてたんですねえ。」淡々と過去の自分を語るMさんは、自分の足を失わざるを得ない現実に直面していました。
血管外科、皮膚科などで出来ることはすべて相談して行ってきました。遺伝子治療などの新たな治療を行っている施設の紹介もしましたが、実際に通院できないためあきらめられました。

あとの祭り。
いくら今のMさんの自己管理がすばらしくても、もう誰にもどうしようもない現実がそこにありました。片足は何とか残して生活してゆきたい、そんな御本人の希望は儚く消え去り、最悪の結果となってしまったのです。

我々医療者は常に患者さんにとって嫌な言葉を言い続けなくてはなりません。体重のこと、血液検査の結果のこと、きりがありません。
何も言わなくても良い、自ら管理をしっかり行っている患者さんは残念ながらごくわずかです。
気づくのが遅かった、では済まないこの現実に患者さん自身が目を逸らさないでほしいと切に願います。自らがこの現実に気づき認識し、今後の人生をどう生きたいのか真剣に考えなければMさんのような方は後を絶ちません。自分の体はどうなってもいいと思っていても、いざどうかなったときにはその苦痛に耐え切れないものです。

私は亡きMさんのお話を機会があれば回診のときに話してゆこうと思っています。
「気づくのが遅かったんです。」
これは不幸にして旅立たれたMさんの、後に残った戦友達へ伝えられなかったメッセージなのです。

そして我々医療者はひとりでも多くの患者に「気づいて」もらうために嫌な言葉を言い続ける勇気を持っていきたいと思うのです。


旧つぶやき リストへ


大田姫野クリニックビルダークリニック

〒694-0064
島根県大田市大田町大田イ14-2
TEL 0854-84-0788
FAX 0854-84-0733